#06 Takayuki Kijima / Hat Designer
#06 Takayuki Kijima / Hat Designer
アーティストやクリエイターたちとのコラボレーションや密な関わりは、クリエイティブに真摯に向き合うことができる、特別で大切な時間です。彼らの前向きなプライドやメンタリティに共感し、声に耳を傾けること。それを多くの人に届けることで、WIND AND SEAは、常に進化をしています。
#06は、「キジマ タカユキ」のデザイナーの木島隆幸。
決して主役であってはならないもの。
トータルで素敵な印象を残すために
ファッションにおける帽子の役割がある。
帽子の業界に入る前は、純粋にファッションが好きでした。自分ができることを模索していた時に「服に携われる小物」なら向いているかな、と朧げに将来を考えていました。ある日、雑誌『an-an』に平田暁夫先生が主催されている帽子教室の広告が掲載されていて、もしや面白いかも? と思って通い始めたのが、先生との出会いでした。とても人に聞かれたくないような不真面目で怠惰なその一年を経て、次のクラス選択するわけでもなく、就職を考えて教室に相談したところ、すぐに上の階にある平田先生のアトリエに空きがあるということで、すぐに面接していただき、働かせてもらえることになりました。
ちょうど募集があったこともとてもラッキーでしたが、帽子の制作って当時は女性には過酷かな、と言われている職業でした。とくに冬のフエルトや夏の天然素材を木型にはめ込む作業は、意外と力が必要とするし、高温で蒸すので手も荒れます。そんな時に、アトリエに男性が2人しかいなかったこともあり、即採用となりました。
若い頃はアメリカ古着を自分なりにアレンジして楽しんでいましたが、遊びに行ったイギリスに大きな影響を受けました。80年代のロンドンファッションは過度期で、パンクテイストなどのいわゆるなロンドンらしさから、ヒップホップのテイストが入り始めたり、ジャズで踊るようなムーブメントが起き始めた頃。ハウスオブビューティアンドカルチャーのジュディ・ブレームたちがお店を出したりして、日本では見受けられなかったスタイルにかっこよさを覚えました。また、その辺にいる普通におしゃれな人が、比較的カジュアルなスーツにワークブーツを合わせたり。すごく自由なファッションにカルチャーショックを受けたんです。「こうでなければならない」といったルール的なものではなく、外しのおもしろさを学べた経験は、今の帽子の考え方に宿っていると思います。
ファッションにおける、自分にとっての帽子の立ち位置や役割はずっと変わりません。主役でなくていい、というよりも主役じゃないほうがいい。ある一部分に目がいくより、トータルで印象に残るような人のスタイルが素敵だなと感じます。
一般的な帽子のメーカーさんって、ある程度のアイテムに特化したものづくりが多いかと思っているんですね。でも自分は欲張りであり、負けず嫌いでもあり、帽子というものに関してはどこにも負けたくない気持ちが根底にあるから、なんでも網羅したいんです。そして、僕はあまり帽子を被るのが得意ではありません。だからこそ世の中にたくさんいるであろう、帽子が苦手な人の気持ちがわかるというか、作り手でありながら立ち位置が同じだったりする。自分が作っていて、最終的に「しっくりくる」という感覚が統一されているところに、ブランドらしさがあるのかもしれません。
デザイナーであり、職人でもある。
それはオートクチュールを学んで得た
ファッションにおける帽子の役割がある。
サンプルは自分で縫います。自分なりにイラストを覚書のように書く程度なので、最終的には自分でパターンを切って、ステッチの入れ方、開き方などをその場その場で考えながら縫製していきます。やはり机の上だけではわからないことがたくさんあります。自分は、帽子のオートクチュールを習得してきた経験から、個人相手にもっとも美しいものを提供するために、細部にこだわるように、帽子ひとつひとつに対して、さまざまな人々の着用シーンをイメージしながらデザインしていく。もちろん、デザインが先に思い浮かび、それを形にしていくために技術的なアイデアが必要なので、僕の肩書きはデザイナーであり職人であるともいえます。
海外セールスを始めるにあたり、前身のブランドから「キジマ タカユキ」にブランド名を変えた11年前が、自分の分岐点でした。その前は、極力インタビューも受けなかったし、誌面に出ることもありませんでしたが、SNSの普及により、時代とともに順応していくことの大切さを感じました。海外展開に関しては、気楽に感じていたこともあり、自分が長年日本でやってきた経験や、帽子への在り方をより多くの人に提案できると思っていたのですが、まったく手応えがなかった。まず日本とヨーロッパでは、まったく考え方が違いました。日本は和の国。トータルのバランスでものごとを考える文化が身に染みているところがあるのですが、ヨーロッパはその中に、狩猟にはこの帽子、というように伝統的な固定観念がどうも根強くあるそうです。自分が80年代にロンドンで魅了された、ルールに縛られない自由なミックスセンスは、じつはとても日本独特の感覚であることに気づき、難しさを感じました。
SNSは共感の意識です。海外にも行き来しやすくなり、ハードルも低くなりました。今は日本に来て、帽子を気に入ってくれた海外の人によって広がっていく。以前のように海外に拠点をもち、海外に合わせた作り方を変えることで、認知されて広げていく考えではなく、自分たちのスタイルを貫くことが、時代とともに認知されやすくなったように思います。
「キジマ タカユキ」は、まだまだ一人でも多くの人に知っていただくのが大事な目標です。たくさんの人にしっかりと自分たちのスタイルを届けたい。そして、着用してみないと似合う、似合わないがわかりにくいのが帽子なので、直営店舗を海外に広げていきたい。知ってさえもらえれば気に入ってもらえるんじゃないか。そんな自信過剰なところもちょっとあるので(笑)
TAKAYUKI KIJIMA / 木島隆幸
1990年から94年までの5年間、帽子デザイナーの平田暁夫氏に師事。「イッセイ ミヤケ」や「ヨウジヤマモト」、「コム デ ギャルソン」などの帽子製作に携わり、ヨーロッパのオートモードの技術を習得。自身の名を冠した「キジマ タカユキ」は、さまざまな事柄から伝わる時代の空気感を独自の視点とバランス感覚で取り入れ、「スタイリングで生きるデザイン」をコンセプトに置く。コレクションは、東京とパリで年2回発表。2017年からはハイエンドライン「HIGH LINE」をスタート。
Drop Date:2024.11.23
Project:KIJIMA TAKAYUKI Collaboration Collection
STAFF CREDIT
Photography _ Local Artist
Production _ MANUSKRIPT